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本当に、嬉しかったから






























まどろみ
































「……どういうことか説明してもらうからな」
現れたアロイスがシリルに放った第一声は、予想通りの、不機嫌なもの。
「後でちゃんと話しますよ」
シリルは苦笑しながら答えた。
苦笑したのは、アロイスが手に持っているものがあまりにも似合わないから。
彼の手には大きなランチボックスがあった。



そう、彼が無線で頼んだのはこのランチボックス。
いろいろなところを確認してあるいていたアロイスを捕まえて、昼食は食堂ではなく夢の間でとるから、 お弁当をもらってきてくれ、と。
もちろんアロイスは大反対した。
問題外だと。
しかし、シリルは普段はこんな奴だが、馬鹿なことで連絡などほとんどないし、考えなしの突発的な行動を取るような奴でもない。
何か考えがあってのことだということは、今までの付き合いでわかっていた。
だから、なんとかラナに頼んでランチボックスを用意してもらってきたのだ。

場所事体は地図上では知っていた、夢の間。
声をかけて、許しを経て扉を開けてみれば、一面の花畑。
とても室内だとは思えない環境。
さわさわと柔らかく風まで吹いている。
話はシリルから聞いていたものの、アロイスはとても驚いた。
ついでに、勤務中であるのに花嫁のとなりに座ってにこにこ談笑しているシリルにも驚いた。
誰とでもすぐに仲良くなる奴だとは思っていたが、花嫁でもそれは健在だったとは。
ここへ来て、花嫁と対面してからのわずかな間にここまで関係を持って行っていたとは。
花嫁の性格もあるのだろうが、それでもアロイスには驚きを隠せなかった。
よっ、という掛声とともに立ち上がり、シリルはアロイスの持ってきた包みを見た。
「しっかし、予想より多いですね…」
包みを受け取って、まじまじと見つめる。
大きなつつみは、3人分の量を軽く超えているように思う。
ラナが軍人の男はたくさん食べるだろうと気をきかせたのだろうか。
まぁ、その気遣いは無用では決してなく、彼女の気づかい通り、特にシリルは食べる奴なのだが。
「安心しましたよ。これだけあれば、そんなに気を使わないで食べれます」
「お前な…」
呆れ顔のアロイスの肩を叩き、シリルはさっさと元の花嫁の隣に腰をおろした。
すわらないアロイスに、シリルは声をかける。
「何してるんですか?食べましょうよ」
彼の行動に気がついた花嫁はふわりと微笑んだ。
「お気になさらず。お座りください」
「はっ」
花嫁の言葉を受けて、アロイスはようやく腰をおろした。
3人なので、花嫁ともシリルとも隣になる。
それは誰にも共通のことだが、唯一アロイスが違うのは、1人だけ少々緊張した面持ちだということ。
自分の信仰する宗教の象徴が目の前にいれば、無理のないことだろうが。
そんなアロイスを分っているのかいないのか、シリルはアロイスから受け取った包みを3人の中心でさっさと開いた。
「わぁ…!」
「すげーっ」
包みを開いて、ランチボックスの蓋をあけると、花嫁は歓喜の声をあげた。
シリルが驚きの声を上げたのもほぼ同時。
色とりどりの料理がぎっしり見た目も美しく並べられていた。
歓声をあげる2人は置いておいて、アロイスはテキパキと取り皿を出した。
「あ、先輩、俺やりますよ」
アロイスから受け取った皿に次々と移していく。
花嫁の分かと思いきや、食べ物でいっぱいになった皿はシリルの前に落ち着いた。
自分の分を確保しただけか。
一瞬拳に力が入ったが、目の前には料理が並べられており、殴りとばすわけにもいかない。
後できっちり灸を据えてやらねばと心に留めた。
「花嫁さんはどれが食べたいですか?嫌いな物とかあります?」
敬語というより、ただの丁寧語。
まったく敬意が感じられないどころか、丁寧語だって申し訳程度で語尾を変えているだけにしか見えない。
警護の任務を行う上で、その対象とコミュニケーションをとり、ある程度受け入れてもらうことは重要だ。
そこにある信頼関係は任務進行上、大きく関わってくるからだ。
その点に関してはシリルは優れていると思う。
だが、相手は国民の半数以上が深く信仰している宗教の象徴だ。
大富豪の娘や貴族の党首とは話が違うのだ。
こればかりは花嫁の前といえども見逃せない。
というか、花嫁の前だからこそ見逃すことはできない。
「ヴィブリッシュ軍曹」
そう言ってじろりと睨みつけた。
名を呼ばれてアロイスの方を見ると、鋭い視線とぱちりとあった。
長い付き合いじゃなくても、これだけ睨まれれば何かしでかしたのだろうかと誰もが思うだろう。
付き合いが長ければ何故彼がそういう視線を向ているのかなどすぐにわかった。
アロイスの雰囲気を感じたのか、花嫁はアロイスを見つめた。
「アロイス曹長…、でしたね」
「はっ」
花嫁の声に頭を下げる。
「そんなに固くならず、楽にしてください。シリル軍曹のことでしたら、私がそう接してくださるようにお願いしたんです。咎めないでください」
「ですが…」
「この部屋、見張りや護衛の人がいないでしょう?私がそうしてくださるようにお願いしたんです。 私が唯一のんびりできる場所だからって。だから必要な時以外には神官も護衛も誰も入ってこないんです。私が許しを出さない限りは」
その言葉を聞いて凍りついたのはアロイス。
あちゃーと苦笑いしたのはシリル。
この部屋に初めて入った時のことを思い出したからだ。
ノックをして入ったとはいえ、そういう事情をしらなかったのは明らかに情報収集不足。
完全なる落ち度だ。
しかもシリルはその後もそんな感じでここへ入ってきているし、アロイスだって呼ばれたから来たものの、アロイスを呼んだのは花嫁ではない。
花嫁の許可を得てから入ってきたが、それでも失敗を犯したという気持ちしか心にはなかった。
「申し訳ありませんでした!」
すぐにアロイスはその場で頭を下げた。
シリルも彼の声と共に頭を下げた。
しかし、花嫁はびっくりした顔をした。
「そんな、どうしてそんなことをするんですか。頭を上げてください」
「いえ、そういうわけには参りません。知らなかったとはいえ、この部屋がそのように花嫁様において重要な場所であるにもかかわらず、このような行動をとりました。 情報収集不足は我々の落ち度です」
それにはシリルも同感だった。
名前の話をした時、初めてこの部屋に来た時、筋トレをしていた時。
気付けそうな場面は今まで幾度となくあったのだ。
それを見逃した。
「いかなる処分もお受けします」
「処分だなんて、そんな物騒なことをおっしゃらないで下さい」
花嫁は2人の手をとった。
思わず2人も顔を上げる。
「私、これでも入ってほしくない人には入室を許可しないんですよ。ここだけは自分の好きなようにやろうって。 あなた方は私がちゃんと招き入れた人たちですから、何の落ち度も負い目もないんです。頭なんてさげないでください」
花嫁はにっこりほほ笑んだ。
「しかし…、このランチボックスは花嫁様のお望みでのことではないと私は考えたのですが」
「確かにこれは私の考えではありません」
その言葉を聞いて、やっぱり、とシリルをじろりと見た。
とっさに視線を外すシリル。
「だからこそ、今、私はとっても楽しいんです」
花嫁は続けた。
「今まで軍人さんが来て護衛してくださることは何度かありました。皆さんとてもよく任についてくださったと思います。 でも、お二方のような人が来たことはありませんでした。 ただでさえここは誰かと談笑できるような空気ではないし、護衛についてくださった方も多くは信仰心が厚くて、緊張されたままで…。 こちらが申し訳なく思うくらいな方もいました。でも、お二人はそういう方ではないようなので」
花嫁は取り分けられた皿を手にとった。
「ずっとこの部屋にいて、周りにはたくさんの人がいますけれど、こんな事も初めてなんです。 だれかと談笑しながら食事を共にしたことなんてほとんどありませんでした。 だからとても嬉しいんです」
「…恐れながら、私たちとは初対面、のはずですが」
「初めてお会いした時にちょっとだけ過去を見せていただきました。どんな方なのか気になって…。気分を害されたならば謝罪いたします」
ゆっくりと頭を下げる花嫁を2人は慌てて止めた。
「お顔をあげてください!!」
その声に花嫁はゆっくりと頭をあげた。
「私の心、おわかりいただけましたか?」
「は…」
「私はお二方に気分を害されたことはありませんし、もっと肩の力を抜いてくださってかまわないと思っています。 ですからアロイス曹長もシリル軍曹のように接してくださってかまいませんから」
花嫁は微笑んだ。
「せっかくの昼食です。一緒にいただきましょう」
アロイスは眉間にしわがよっている。
不機嫌なのではない、考えているのだ。
「先方がああ言っているんです。お言葉に甘えましょうよ。ほら、せっかくの昼飯なんだし」
「そうですよ、こんなに美味しそうなんです。早くいただきましょう」
もうすでに食べる気満々のシリルに相乗りするように声を上げた花嫁の目はきらきら輝いている。
ほんの数日前に会ったばかりだとは思えないほど打ち解けているように見えた。
なんだか微笑ましい気持になってくる。
「それでは俺もいただきます」
そうアロイスが言うやいなや、2人が一斉にしゃべりだす。
「先輩、これすんごい上手いっすよ!」
「こちらもとてもおいしいですよ」
その姿に思わず苦笑した。













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